「どんな手を使ってもいい。早く状況を確認するんだ」
シルフさんが此処を出た後、私は苛立ちを隠すこともせず命令する。
「駄目です。無線も有線も衛星もつながりません・・」
思わず頭を掻く。何もかもが不明。
ミサイルでも爆撃でもない。
当時、防衛網はまったく反応していないからな。
やはり・・・実験用の原子炉が何らかの事故で・・・?
確かにあの日は原子炉を換装する日ではあったが研究員がそんなへまをするだろうか。当然極秘での換装だ。
それに原子炉は完全に停止した状態でないと地上に出してはならないという規定がある。
「ヴィンセント大佐。各方面の領主達からローランド島についての問い合わせが殺到してます。」
オペレーターのリーダーがいつの間にか横にいた。
「あ・・あぁ。そうだな・・。」
頭が爆発しそうだ。シルフさんは昔こういうものをさばいてきたんだろうな。
「エリー秘書官、ランバート長官はもうローランド島へ向かったのか?」
バインダーを覗き込んでいる若い女性秘書官に聞く。
「いえ・・今公務を片付けておられます。」
彼女は目をバインダーに落としたまま言う。
「よし・・明日だ。明日希望する領主たちと共にローランド島に飛ぼう。そう知らせてくれ」
オペレーターは敬礼すると自分の仕事場に帰っていった。
憂さ晴らしに周りを見てみれば近くのレーダーの記録を見ていたオペレーターが集まっている。
「どうした?」
私は近づきながら声をかけた。
「大佐・・いえ。きっと見間違いです。」
「確かに・・こんな反応は見たことがない。だよな?」
「あぁ・・魚でも船でもないことは確かだ・・故障じゃないか?」
疑問の声が多数を占めている。
「いいから言ってみてくれ。何かつながるかもしれない。」
「じゃぁ・・此処なのですけど・・」
オペレーターは画面の一部を指差す。
連続して観測された反応を結合したものだった。
観測物の動きを見極めるのに良く使う方法だ。
そこには点々と線が映し出され、ローランド島に向かっていた。
「・・・?」
「良く見ててください。これは電波レーダーの反応で・・」
隣の画面を示す。
「こっちがソナーの反応です。」
確かに同じ位置に反応がある。ただしこちらも途切れ途切れで点が表示されていたが。潜水艦が海底で身を潜めていたのか?
「音響ソナーか?潜水艦からのミサイル攻撃は探知できるはずだし、この場所なら哨戒艇が通報できたはずだ」
「いえ。この反応は強くありません。なぜかは判りませんが・・・観測点は水面近くのようです。」
これは何を示しているのだろう・・
明らかに通常ではありえないことが起きている。
あーっ・・・いったい何がどうなっているんだ
「レーダー回復。メインモニターに出力します」
やっとか。まったく長い磁気嵐だったな。
そう思ってちらっと目をやると、そこには信じがたい光景が目に入った。
私は慌ててマイクを取りセンター内に怒鳴るように言った。
「戦闘機をスクランブル発進させろっ。第3艦隊は直ぐに出航準備にかかれ。各部隊にも待機命令を出せ」
「え?・・・いったい・・」
通信士達は突然の命令に戸惑っている。
「くそ・・テレジア上陸部隊がローランド島に接近中。各隊緊急配備。ローランド島との通信復旧を急げ」
それだけ言うと乱暴にマイクをデスクに押さえつけ、メインモニターをにらみつける。
部屋の大部分が突然のことに狼狽している。
私も同じだった。
巨大なメインモニターにはローランド島の西に艦船数十隻が写し出されている。
IFF(敵味方識別装置)との合成でフリゲート艦数隻と強襲上陸艇、ホバークラフト、攻撃ヘリの文字が点の横に並んでいた。
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