小説  

 

 
       第3話

霧島
戦記

 第4話2  TOP

クロスポートに着いてから俺は好奇心で満たされていた。
霧島に突然降りかかった『雷』に戦線布告。
しかも爆発は偽装の可能性が高い。
「・・・これはただ事じゃないな」
一人にやけてつぶやく。
それを見てレイは顔を輝かせて
「まさか此処で捜査するとか思ってる?」
と聞く。
「このまま俺が黙っているとでも?」
「やっぱり。そういうと思った。」
周りを見渡す。
良く見えないが結構な数の兵士がいるようだ。
まぁ兵士といっても装備に自動小銃も持ってないし拳銃くらいだろう。
暗視装置なんてものも装備していないだろう。
「レイ。お前は帰って親父に知らせろ。」
「え〜・・・。ずるいよ独り占めなんて」
「これはテレジア政府に潜り込むのとは訳が違うんだ。」
「私が足手まといっていうの?」
「そういうこと」
「う〜・・そんなしれっと答えなくても・・・」
レイは不機嫌そうに喉を鳴らす。
俺はため息をついて意味ありげにささやく。
「親父がこれを聞いて黙っているとおもうか?」
レイはニヤリとして
「そーゆーことね。あんたもワルになったね」
「とりあえずローランド島で落ち合おう。ドサクサで入り込めるかもしれない」
「りょーかいっ。で、あんたはどうするの?」
「まずは協力者を探すことにするよ。知り合いがいるんだ。泳いでいくには遠すぎるからね」
そのとき空港内に係員の声が響いた。
テレジアの国民全員を一隻の客船でイリアス経由で送り返すという。
「じゃーねー」
レイがゲートをくぐりながら手を振ってくる。
軽く手を振り返し、俺は全力でトイレへ向かった。

港内ということでにぎわっている。
それにまぎれて問題なくトイレに駆け込むと、用を足しながらさっきのことを考える。
クラウン・・かつて全人類の意識の画一化と管理を目的にした組織。
まぁ結局内部分裂してその一部が暴露し、戦争で消えた。
いや、消えたとされる組織。存在自体があやふやだ。
まずはローランド島に向かわなければ・・
俺はトイレの換気扇を破壊して外に出た。


「それで俺とところに来たと。」
「えぇ。」
俺は父のテレジアの古い友人の息子、フロストをたずねていた。
この色黒のマッチョとは以前は頻繁に遊びにかよっていた仲だ。
もっとも俺が知っていたときはこんなに人相が悪くなかったが。
「いい度胸だ。いまや俺とお前は敵同士なんだぞ?」
黒いサングラスが見た目を余計に怖くしている。
「真実を求める者に敵も味方もありません。父がよく言ってました。俺は敵の記者と共に戦場を書いてきたと」
つい他人行儀になってしまう。
それを聞いて彼はめんどくさそうにウイスキーのボトルをあおる。
フリーのパイロットをしている彼の部屋は雑誌や酒のビンが散乱して足の踏み場もない。その中で飾り棚に置かれたアクロバット飛行の優勝カップだけが目を引く。
「残念だが」
彼は身を起こしながら言った。
「俺は記者じゃねぇんだ」
「そうですか・・」
俺は肩を落として立ち上がり、ドアを開く。
「おい。」
フロストが呼び止める。
「何処へ行くんだ」
「何処って・・協力してもらえないんでしょう?通報される前に逃げるんですよ」
「俺は乗せねぇなんていってないぜ?」
彼は唐突に立ち上がり気持ちの良い高笑いをする。
「料金は後払いにしといてやる」


俺は息を呑んだ。
その格納庫には霧島共和国防衛隊の使用する「PET-10」と呼ばれる垂直離着陸強襲官制機が翼を折って休めていた。
「いい機体だろ?」
「こ・・これお前の・・?」
彼をまじまじと見ながら言うと得意げにうなずいた。
「どっから手に入れたんだ?」
「安全で、合法的なルートだ。安心しろ」
満面の笑みが逆に不安だ・・。
「おーい、ケイ、お客さんだ。いつ飛べる?」
すると機体の中から彼には似合わない色白の女性が出てきた。
だぶだぶの作業服を着ている。
「いつでも良いわよ。急ぎ?」
彼女・・ケイは見た目を裏切らない柔らかな口調で言った。
「あぁ。久しぶりの冒険だ。」
「そちらがお客さんね。私はケイ・ナガセ。よろしくね。」
彼女が微笑みかけてくる。
俺はこちらこそと軽く返した。
「じゃぁちょっと待っててね。直ぐに支度するから」
「他のヤツラはどうした」
フロストが機体から半身乗り出して聞く。
彼女は肩をすくめた。
「さっきまで調整してたんだけど・・もしかしたら買出しかも」

暫くして準備が整う。
パイロットシートにフロスト、隣にはナガセさんが座る。
他にも通信/電子戦官制装置の前ににクラークという老人とアヤという少女が座った。
俺はキャビン中ほどに座っている。
此処から見ると、機体はほぼ現役当時のままの装備だと判った。
折り込まれて格納されたM240機関銃すら残っている。
「さぁ準備はいいか?」
フロストの声がヘッドセットから流れてくる。
それぞれが同意のうなりをあげ、フロストが親指を立てて腕を突き出す。
直ぐに4機のタービンがうなりを上げ始めた。
・・・ついに俺達の冒険が始まったのだ。










































































PET-10:
霧島共和国初の国産機。
その頑丈さと荷物の搭載量には定評がある。
垂直離着陸機で4つのジェットエンジンを高度な電子制御で安定して操作できる。
軍事利用も想定されていることから様々な装備がオプションで設定されているが、主にジャミング、特殊兵員・兵器輸送として利用される。
折りたたみのの主翼を備えた後期型
は艦載機としても配備される。
当然民間としても使用されており、民間型は世界中の航空会社が保有する。












M240機関銃:
テレジア製機関銃。
ドアガンとして世界中で広く使用されている。