私はテレジアからきた記者二人をもてなすため車の運転席にいる。
目指す先はセントラルタワーだ。
まぁ単純にここ数日運良く休日を手にできたので担当だった部下に代わってもらったんだが。
というのも長い公務員暮らしでは世間に接する機会が少ないし、テレジアについても知っておきたい。
彼らは珍しくテンションの高い若者の記者だ。
「何をお調べにこられたんですか?」
私が聞くとバートレットさんが小さく悲鳴をあげ、
「えー・・・っと・・その、霧島の観光について記事を・・・」
という。
彼女に言わされた彼を思って笑いそうになるのをこらえる。
「そうですか。今の時期はちょうど燕がこの地域に飛んできてますね。
各地で子育ての姿がご覧になれます。」
そこまで言った時女性の方が
「この壁は・・・?」
と窓の外、町を囲む隔壁を指差す。
「あぁ・・あれは町の成長を抑えるための壁です。」
「町を・・・発展させた方が良いのでは?」
バートレットさんだそう不審そうに尋ねてきた。
「確かに経済を成長させるのには邪魔ですね。」
ちょっと間があいてシルバーグさんも参戦してきた。
「じゃぁなんで立っているんですかぁ?」
「それは・・セントラルタワーに上れば判りますよ」
私はあえて先延ばしにする。
高速道路に入り、一番高い道を選ぶ。
「これがわが国の頭脳であり象徴、セントラルタワーです。」
セントラルタワーから伸びる8本の大通りに出ると、道から生えているように立っているセントラルタワーが視界に入る。
後席は見入っているのか静かだ。
「地上50階建てで中央のビルには中央政府、北にはカラクニ政府、西はローレンス政府、南にダベンポート政府、東にシーゲート政府が入ったビルが並び、それらのビルは実際に島の方角に向かって立っています。」
そして意味深に付け加える。
「運がよければ、私たちの長官に会えるかもしれませんよ」
思ったとおりシルフ長官はエントランスに人だかりを作っていた。
私は彼らのために長官との面談の時間をあらかじめ作っていたのだ。
「あそこにおられるのが最高長官、シルフ・ランバート氏です」
そう案内して彼らを見るとあっけに取られていた。
「え・・・・?最高長官って・・大統領・・のことですか?」
彼が信じられないといった様子で聞いてきた。
「えぇ・・どうかされました?」
「い・・いえ・・」
「一応長官とは自由に話が出来ることになっています。まぁあの人だかりの中では難しいでしょうね」
彼女も聞いてくる
「あそこにいるのは一般の・・・?」
「記者さんもいますが、殆どは一般の方です。あなた方も参加してみてはどうです?」
それをいうとバートレットさんは喜んで人だかりに突っ込んでいく。
彼女を残して。
暫くしてセントラルタワーの展望台に上る。
相変わらず観光客が集まっていて、みやげ物も売り上げは上々らしい。
霧島の全体像が眺められる360のパノラマが自慢の此処では、さっきと打って変わって彼女の方が文字通りはしゃぎ始めた。
「・・元気な方ですね」
と笑いながら彼に言うと、苦笑いしながらえぇとだけ答えた。
次の瞬間空が閃光で白くなる。
ローランド島の方角にそれは落ちたように見えた。
「・・今のは?」
彼が聞いてくる。
顔がこわばるのが自分でもわかる。
「判りません。しかし、異常なことが起きているのは事実です。」
そういうのが精一杯だった。
展望室にどよめきが広がる。
私は彼らを連れて-本当は許されることではないが-地下5階国防フロアへと向かった。 |