小説  

 

 
       プロローグ

霧島
戦記

 第2話  TOP

「何故ですか?」
私は上司に問い詰めていた。
テレジア民間新聞社の記者となった私は先週、国ぐるみの法案強行採決の記事を書いた。
それは今日、テレジア開放記念日である今日、朝刊で発表されるはずだったものだった。
しかし、その記事は紙面に存在しなかったのだ。
「バートレット君。長生きしたかったら・・・」
「政府にたてつくな」
私が後を続ける。
「しかし・・」
「しかしもなにもない。もしこれが発刊されていたらこの会社はどうなる?政府の圧力はそんなやわなものではないんだ
。」
「此処は民主主義の国です。言論と思想の自由が保障されているはずでなないのですか?」
「ふん・・民主主義ね。」
課長は鼻で笑った。
「そんなものは国民を納得させるための口実だ。それは君が一番知っているはずだろう。親父さんから聞いてないのか?


「そう・・ですけど」
「わかったらとっとと仕事に戻れ」
「・・本当にそれでいいんでしょうか」
その問いに返答はなかった。部屋を出る直前の課長の少し悲しい表情を私は見逃さなかった。

この国は腐り始めている。親父と私は二代にわたってこの会社の記者をしている。本来、政治を実況し、正すための新聞はただ政府言いなりになり・・
たまに汚職とかの軽いものは出るが・・根本的な問題は報道が許されなかった。
特に国際関係の情報は新聞社独自の見解が出せそうにない。
国会はほぼ二党連立となり、若手は”理想”を掲げてがんばっているが、結局は上層の好きなような政治が展開されてい
る。

「はぁぁぁ・・・」
「また変なこと書いたんだ」
大きなため息をつきながらデスクに座ると隣のレイが声をかけてきた。
彼女の面白がってるような口調に心が和む。
「どーせまた政府の悪口でしょ」
「まぁね〜」
「他に書くことないの?」
「・・・政治担当に俺にそれをいうつもり?」
「ごめんごめん。でも疲れない?悪口かいて」
「そうだねぇ・・」
そういえばこのごろ休暇をとってない。
たまには旅行にでもいこうかなぁ〜と考えていると・・・
「旅行に行くなら私にいってよ?」
「・・・レイ、お前いつから心を読めるようになったんだ・・」
「霧島共和国。一回行ってみたいんだ〜♪」
「霧島ねぇ」
20年前、この国から独立した貿易国。
行った事はないが、どの人に聞いても移住したいという感想が帰ってくる。
リゾート地もあり、観光を希望する人も多いが、霧島共和国は治安と政治的理由から入国者は制限されている。
観光でもこうなのだから移住はもっと難しいだろうな・・・
「でももう予約ビザとれないだろ・・」
「ちっちっちっ。甘いわよぉ〜」
にやけて俺の顔の前で指を振って見せる。
「記者枠があるじゃないですかぁ。記者枠が」

ということで俺達は霧島共和国のビザを(無理やり)とって観光・・というか取材が出来ることになった。
ローランド島・・テレジアに一番近いこの大きな島はテレジアからの玄関口。
此処から船または飛行艇で本島や他の島に向かうことになる。
「もー・・・・なんで一日しか自由行動できないのよっ」
レイが頬を膨らませてダダをこねている。
3泊4日の旅のうち3日目しか自由行動できないのが気に入らないらしい。
「しょうがないだろ・・取材できているんだから」
そうなだめていると手続きをやってくれていたガイドさんが声をかけてきた。
「あの・・そろそろ飛行艇の時間です・・」
案内をしてくれるガイドさんが困った顔でこちらを見る。
「ほら、ガイドさんも困っているだろ」
記者枠でとったビザでは基本的に自由行動は取ることが出来ない。
そんなことをすれば観光ビザと混同し、混乱するからだろう。
俺はなんとかレイをなだめてガイドさんについていった。
暫く行くと桟橋に小型の飛行艇が泊まっていた。
「この飛行艇で本島に向かい、まずはホテルにチェックインしていただきます。」
乗り込むとガイドさんが向かいの席から声をかけてきた。
「取材ツアーでは出来る限り希望にそえるよう努力いたしますのでよろしくお願いします。」
そういってお辞儀をする。
初めてロビーで会ったときも思ったが・・相当きれいだな〜とか思っていると
飛行艇が揺れと共に海面を滑り出し、危うく船酔いに負けるところだった。

「霧島共和国は20年前、あなたたちの国、テレジアから独立し最近やっと安定してきました。
先ほどいたローランド島、東のイーストポート島は古来より港町として栄えたのはご存知だと思います。」
私たちはやや狭い飛行機の中でガイドさんの説明を聞いていた。
気分は完全に観光そのもの・・
「右手が本島、霧島です。空からの眺めは勿論、町並みや自然環境も私たちの自慢の一つです」
ガイドさんが窓を指し、得意げにいう。
本島は三日月型で、その真ん中が盆地のようになっている。
盆地の中ほどには首都、霧島市があり、その中央の+型に並んだ背の高いビルを中央に放射状の道路が印象的だ。
そして島全体にうっすらともやがかかっていた。
パイロットが気を利かせてくれたらしく、飛行コースを変えて太陽を背にとんでくれたので島が虹の輪の中に見える。
レイは完全に目を輝かせて窓に食いついている。
今にも鼻歌を歌い始めそうな顔だ・・・。

着水時の船酔いの酷さを除けば快適な飛行だった。
俺達はパイロットに例をいって別れ、豪華なホテルに向かった。
部屋で着替えてもって行く装備を確認する。
カメラ、ボイスレコーダー、ペンにメモ、財布。
よし、忘れ物が酷い俺にしてはいい成績だ。
隣のレイを見ると・・
「をい。」
「ん?なに?」
「それ・・・・」
バッグからシュノーケルやら携帯ベンチがはみ出ていた。
「あぁこれ?軽いし小さいしこういうときにはいいかな〜と思って。」
満面の笑み&超ハイテンションな彼女。
やけに大きい荷物だと思ったらそういうことだったのか・・。
「・・・・好きにしてくれぃ」

ため息をつきながらロビーにでると、ガイドさんと一人の男が話していた。
こちらに気づくと、二人がこちらに歩いてくる。
「こちらは専属の運転手兼ガイドになるメーヴェ・ヴィンセントさんです。」
「どうぞよろしく。」
男は微笑み、握手を求めた。
「よろしくお願いします。」
舞い上がったレイを尻目に握手にこたえる。
「ははは・・彼女はかなり期待していらっしゃるようで。その期待には是非こたえさせていただきますよ」
「では予定の確認をさせていただきます。この後13:30から16:00まで霧島都心を満喫していただき、その後はホテルに
もどり、お休みください。明日からの予定はホテルに帰ってから確認させていただきます。」
どうやら彼女は玄関から此処までらしい。少し残念だ。




















































霧島共和国:
20年前第3次世界大戦終了時に成立。
東海に浮かぶ他島国で4島を中心とする。経済体系は社会主義でも資本主義でもないとされる。
国自体の歴史は浅いものの古くから貿易船の行きかう港町が点在しており、3次大戦ではザフトとテレジアの双方が拠点構築のため進出・攻撃を加えていたが地元住民と両軍の反乱兵が反抗し、両軍と停戦講和を結ばせた。
この瞬間霧島共和国は成立しラルフ・ランバートを主総として国を作った。
中心区域は”国民”しか入れず、治安は世界一良いとされる。自然環境の宝庫でもある同国は観光スポットとして世界中から旅人が訪れている。

飛行艇:
航空機の一種。
海面を滑走路をするため従来のような大規模の空港を必要としない。
天候に左右されやすい、離着水の衝撃がすさまじいことから滑走路にも着陸できる機が増えている。