小説  

 

 
       第10話1

霧島
戦記

 第11話1

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2650年6/01、09:10AM ローランド島東沖

「作戦司令本部より入電。」
私はそういわれて初めて一人の下士官がクリップボードを手にして立っているのに気づく。
受け取った証にサインをしてクリップボードを返す。下士官は忙しそうに一例して持ち場に戻っていった。
私は殴り書きされた文字を眺める。
・・ついに来てしまったようだ。
「全艦に伝える。こちらは水上戦闘隊戦艦キリシマ艦長のエマ・ヴィンセントだ。
作戦司令本部はテレジア艦隊に自国へお帰り願えとのことだ。
これよりテレジアとの交戦を開始する。総員戦闘配置。全艦方位2-3-0へ一斉回頭。情報戦開始!」
「方位2-3-0、全艦一斉回頭!」
「護衛艦”クラリス”、”ジーク”ジャミング開始」
けたたましい警報と赤色回転灯が動作するなか今まで静まり返っていた艦内が活気づき、すぐに各艦とのデータリンクが完了する。
最上部に設置された艦橋CIC(CIC:戦闘指揮所。本来は船内中階層にある。戦艦”霧島”は艦橋とCICを組み合わせ、情報をリアルタイムで共有できるようになっている)
の巨大なメインモニターにレーダーなどの情報が次々と表示されていく。
『第2水雷船隊より旗艦へ。敵性潜水艦より攻撃あり。魚雷3本を回避、損傷はありません。反撃しますか・・?』
スピーカーから戸惑ったような寮艦隊の艦長の声が聞こえてきた。
潜水艦の撃沈は即乗り組み員の死に繋がる。しかし私たちにとっては後々厄介な存在になるだろう・・
非常に残念ね・・・
「旗艦より第2水雷船隊旗艦”フッド”へ。敵性潜水艦を攻撃せよ。艦隊から半径30マイル圏内での攻撃行動を許可する。」
『・・・・第2水雷船隊了解。半径30マイルにて攻撃行動をとります。』

「艦長。」
しばらくの後、横にいる副官が声をかけて来る。
そちらを見ると、いつの間にか全員がこちらを見ていた。
・・・皆これから何を攻撃するのか解っているのだろうか・・
私は歳の割りに早くも涙腺が弱りつつあることを再認識して、再びマイクを手に取る。
「旗艦より全艦へ。今作戦の目標はケープコッド駐屯地の奪還である。我が隊はこれよりケープコッドのテレジア軍を砲撃し、ケープコッド基地から奪還作戦を支援する。
攻撃開始、目標は私が指示する。それまで待機せよ・・実戦はみな初めてだろうが、訓練はたっぷりやってきた。臆することは無い。」
・・もしかしたら一番おびえているのは私かも知れないな・・
下士官が淹れてくれたぬるいコーヒーを飲み、気を紛らわせても手の震えは収まらなかった。
「艦長・・大丈夫ですか?具合でも悪いので?」
見かねたのか副官のジャネットが声をかけてくる。
ジャネットは私より6歳ほど年上だが、その消極的性格のせいか昇進はうまく進まず
7年前初めてこの”霧島”の艦長に就任したときには彼も同じように副長に昇進したばかりだった。
それ以来色々とお世話になっている。
「ちょっと武者震いがね・・でも大丈夫。」
にこやかに返事をしようとしたものの顔が強張っているのが自分でも解った。
気まずさを感じて制帽を被りなおす。
念のため-気を紛らわすこも兼ねて-目標までの距離を聞く。
「測距儀ですとケープコッドまで距離11000。射程圏内まで2分程度です。」
「了解。上陸部隊は?」
「我が艦隊より8マイル東です。相対速度はマイナス10」
「よし・・進路そのまま。対空、対潜警戒を厳にせよ。主砲88式弾装填。ミサイル1・2番管にSSM(対潜ミサイル)、3・4にSSM(対艦ミサイル)、5〜8番管にSAM(対空ミサイル)を装填、発射準備をしておけ。」
「了解。主砲88式弾装填します。各ミサイル、」
「第二水雷船隊応答せよ。」
『第二水雷船隊"フッド"、艦長キースです。どうぞ』
「現状をしらせよ」
『敵性潜水艦を包囲。現在アクティブ・ピンにてモールスを打ち、降伏勧告中。』
やや行動半径を外れていたため気になっていたのだが、この1、2時間の間にチェックメイトをかけるとは・・。
キースという男は相当な策士のようだ。
「了解。敵潜の攻撃に注意して行動して。」
『了解』

そういえば先行していた第3艦隊強襲隊第6中隊はどうなったのかしら・・
船足の速いクルーザー(巡洋艦)クラス3隻を中心に駆逐艦6隻を擁する第6中隊はわが本隊を離れ、偵察も兼ねて最短コースを全速で航行していたはず。
「副長。先行隊・・・第6艦隊はどうした?」
「そのことなのですが・・先ほどから連絡が取れない状況です。4分前までレーダーにはソレらしき影がありましたからまだ無事だとは思うのですが。」
「IFFは?」
「沈黙しています。」
「・・では急がなければならないな。全艦に通達。最大戦速にて航行せよ。」
「全艦最大戦速!」
副長が復唱し、続いて繰舵手が復唱する。
「了解。最大戦速。」
「第2水雷戦隊応答せよ。」
『第2水雷戦隊旗艦”フッド”艦長キースです。』
「事情により貴艦隊を待つことは難しくなった。敵潜を処理した後追って合流せよ。」
『了解。敵潜を処理した後追って合流します。』

全ての準備と覚悟はできた。
・・第4次世界大戦・・か・・・
おもしろいわね。生き残って見せようじゃない。